映画『スーパーローカルヒーロー』に続いて、
なぜ僕が本をつくったのか



 3・11が起きるまで、僕という人間は眠っていたのかもしれません。

  何をやりたいのか、何をすべきなのかが分からず、誰かの真似のような生き方をする20代を過ごしました。自身へのいらだちや周囲からのプレッシャーから逃 げるようにイギリスに留学し、映像の世界に出会い、ようやく自分の進むべき道が見えたような気がしていました。しかしそこには、「何のためにするのか」 「何を表現したいのか」という哲学が欠けていました。心の底から納得できるもの、充足感を得られるものがないままでした。

 そんな矢先の3・11。午後2時46分に東北を襲った大地震は、地球の裏側まで響き渡り、早朝のロンドンにいる僕を目覚めさせたのです。
 それまで僕は、「原発」のことも「放射能」のことも考えたことがありませんでした。海外の仲間たちから日本の政治や歴史について、あるいは自分の出身地である「ヒロシマ」のことをたずねられても、何も答えられませんでした。
  震災を機にロンドンから広島県尾道市に帰り、自分が今なすべきことは何か、真剣に向き合い始めました。そしてある日、ちょっと変わったオジサンと出会いま す。以前の僕なら気にもとめなかったであろう無愛想で要領の悪いそのオジサンは、どこにでもいそうでどこにもいないオジサンでした。
 目の前の問 題に他人事ではなく自分事として取り組み、何の見返りも求めず、ひたすらまっすぐ突き進むオジサン。「ヤボ」な僕はその「粋」な生き方に、いつしか惹きつ けられていました。と同時に、さまざまな問題の本質が、じつは自分のとても身近なところにあることにも気づかされていきました。
 全国上映となった僕のドキュメンタリー映画『スーパーローカルヒーロー』は、そのオジサンの後ろ姿から学んだことを映像で表現したものです。「ヒーローは特別な誰かなんかじゃない。自分自身がそうあるべきなんだ」ということを確信しました。
 本書では、『スーパーローカルヒーロー』が誕生するまでのいきさつと、日本をはじめ海外で上映していくなかで見えてきたこと、91分の映像だけでは伝えきれなかった想いをつづりました。
 映画を観た人たちが寄せてくれた感想から浮かび上がってきたキーワード、

「家族のあり方」
「3・11後の生き方」
「あたらしいヒーロー像」
「これから自分のすべきこと」
「音楽の本来の役割」
 これらをもう一度かみしめて、何かをみなさんに投げ返したくなったのです。


 つたない文章ではありますが、映画とあわせて本書に目を通していただけたら、こんなにうれしいことはありません(映画『スーパーローカルヒーロー』の無料視聴案内が222ページにあります)。
 すでに映画を観てくださった方には今一度「生きる哲学」について考える機会に、映画より本書が先という方には、僕という人間の変化を通して、あらためて3・11を振り返る機会にしていただければ幸いです。

 

 

 

 

 

 


【著者プロフィール】

田中トシノリ
1981年、広島県福山市生まれ。映像作家。

学校やおとなの理屈に対して「なぜ?」という疑念が頭をグルグルする、 ちょっと窮屈な子ども時代を過ごす。

大学を卒業したのちロンドンに留学、日本とはまったく違う常識や価値観に触れ、自分を縛りつけていた「何か」からやっと解放される。

Cavendish College Londonで映像制作を学び、3・11 後に帰国。尾道にてドキュメンタリー映画『スーパーローカルヒーロー』を完成させ、第30回ワルシャワ国際映画祭の 正式上映に選ばれた。

現在は大学の講師をしたり畑を耕したり町おこしのNPOに関わりながら、「人の営みの記憶 が染み付いた古い町・尾道」を舞台にした次回作を構想中。